もしあなたの名前を間違って呼ばれたとき、あなたはどういう行動にでるだろうか。返事はするにしても、名前違うよ、と思うかもしれない。
職業柄、気になって仕方がないことがある。キャンプ用のポールやペグに使われているジュラルミンという材質を大半のメーカーが名称(呼び方)を間違えている。別に間違っていたって良くも悪くも使用上は問題ないだろうが、知っていたらやはりそこは指摘したい。
2020年3月6日にご指摘をいただきました(詳細はコメント参照)。私はテント設計をしたことがない素人ですので、一個人の意見として本ブログをご笑読いただければ幸いです。また、設計者がオーソライズされていないweb情報を鵜呑みにされているとは思いませんが、設計をされる際は然るべくエンジニアリングシート、査読付き論文などをご使用のうえ、各種耐久評価をされることを祈念しております。
アウトライン
1. アルミ材料の正しい表記
ちなみに正確には以下が正解。
- ジュラルミン :A2017(写真はジュラルミンを使った飛行機)
- 超ジュラルミン :A2024
- 超々ジュラルミン :A7075
出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Duralumin
2. 各キャンプ用品メーカーの表記を調べてみた
そこで、”ジュラルミン + ペグ + テント”で検索し、上位検索にあがったスノーピーク 、ロゴス、フィールドア、コールマンの材料表記を調べてみた。スノーピークとロゴスは表記が間違い、フィールドアは正解、コールマンは詳細な記述をしていないために間違いではなかった。
スノーピークのジュラルミンの表記
ジュラルミンペグR-043であるが、材質の表記が間違っていた。
ジュラルミン(A7075)→ 超々ジュラルミン(A7075)
A7075はジュラルミンではなく超々ジュラルミンだ。頼むよ、スノーピークさん・・・
出典:https://ec.snowpeak.co.jp/snowpeak/ja/キャンプ/テントペグ・ハンマー・ロープ・ポール/ジュラルミンペグ/p/128
同じジュラルミンペグがamazonでも検索にひっかかっていたが、本家サイトと仕様が異なるアマゾン・・・本家がA7075と表記しているのにA7001はないだろう。しかもA7001はジュラルミンでも超ジュラルミンでも超々ジュラルミンでもない。耐力はA7075よりもA7001の方が高いが、高いだけで簡単に使ってはいけない合金だ。7000系(読み方はナナセンケイ)と呼ばれるアルミニウム合金だ。
A7001超々ジュラルミン→ A7001アルミニウム合金
フィールドアのジュラルミンの表記
テントに超々ジュラルミンはどうかと思うが、表記は完璧なフィールドア。テントのポールになぜジュラルミンがNGなのかは以下の記事を参照していただきたい。
A7075 超々ジュラルミン→◎
出典:http://fieldoor.com/tarp/aluminumtentpole150/
ロゴスのジュラルミンの表記
“A”が抜けているがペグはほぼOK。
7075 超々ジュラルミン→A7075 超々ジュラルミン
出典:http://www.logos.ne.jp/products/info/3162
ティピーテントは”A”が抜けているが記載はほぼOK。
7075 超々ジュラルミン→A7075 超々ジュラルミン
出典:http://www.logos.ne.jp/products/info/2045#tab
やはり間違っていた。ソロテントはA7001をジュラルミンと言っているので間違い。
7001ジュラルミン→ A7001アルミニウム合金
出典:http://www.logos.ne.jp/products/info/3153
コールマンのジュラルミンの表記
コールマンのペグにはジュラルミンという表記はあったが、材料名を記載していない。これはこれで間違いない。ジュラルミンであるため、A2017が妥当だが真実はメーカーしかわからない。また環境遮断のため、表面処理(アルマイト)を施しているのは良いと思う。ただし、表面処理の施工に注意して欲しい。
3. キャンプに使われているアルミの比較
設計者はカタログスペックをまずは見るので強度が高い材料を使いたがる。以下のスペックだけを見ると、A7001を使いたくなる気持ちはわかる。ただ、高強度アルミニウム合金の開発の歴史は、応力腐食割れの歴史でもあり、腐食環境が担保されてこそ使ってよい材料ともいえる。ファミリーキャンプのようなアウトドアでは、どのような環境で使われるか想定できないものと思われる。福島原発事故でよく言われたような”想定外”、このような想定外なるものをなくすのがエンジニアの務めではないだろうか。
規格名 | 通称 | 0.2%耐力 (MPa) |
伸び (%) |
---|---|---|---|
A2017-T4 | ジュラルミン | 275 | 22 |
A2024-T4 | 超ジュラルミン | 325 | 20 |
A7075-T6 | 超々ジュラルミン | 505 | 11 |
A7001-T6 | アルミニウム合金 | 625 | 9 |
A6061-T6 | アルミニウム合金 | 275 | 12 |
この情報をみていただき、各社が正しい表記に直してくれることを期待したい。
私も大したことはありませんがエンジニア(テントの開発にも少々関与しています。)をやっております。その上でA7001はテントのポールに最適だと考えています。
テントは建築物と使われ方が異なります。比べる土俵は併せて使うポリエステルやナイロンの紫外線劣化でしょう。
私は鑓の山頂手前のテン場でルート変更した台風に遭遇したことがあります。標高3000m超えの尾根筋です。通り過ぎたあと、約1/3のテントは崩壊している様でした。勿論ポールが曲がったテントも見かけました。
このような経験もあり、重量を増やせない前提であれば私は(テントにはさして必要のない)腐食に対する寿命よりも耐力を取ります。
ロングトレイル踏破や日本の海外遠征を支えてきたテントのポールの多くはDAC NSLのようなA7001でしょう。
それらを支えてきたポールメーカー、テントメーカーは(我々のような素人が経験しないような危険な遠征を含む)多くのデータに基づいて判断をしている筈です。
どのような意見をあなたが持たれるのも自由ですが、ご自身のホームページのアクセス数を見ればそれなりの責任が伴うと考えた上でお考えを展開されても良いのではないでしょうか。
7001 7075等で調べると貴殿のページはトップにきます。
ご指摘ありがとうございます。
小職のブログは貴殿の指摘と異なるものかと思いますので、その点を説明した上でブログの追記、修正について述べたいと思います。
まず弊ブログでは、”ファミリーキャンプに使われる高強度アルミニウム合金”について触れております。
一方で貴殿のご指摘は、登山、トレイルなどの過酷な環境を想定されているかと思います。
その重量を極限まで落としてアタックされる分野に関しては、製品設計としては同様に耐力重視の設計をとります。
ただそれには、道具の管理がなされているという前提条件があるかとおもいます。
ファミリーキャンプではどのような使い方がされるかわからない、このような前提で設計すべきではないかと提言しているつもりでいます。
考えすぎかもしれませんが、フールプルーフ視点にて進言しております。
航空機、輸送機器、そして人命を守る構造部材を設計される方々は、弊ブログなどあてにされないかと思います。
そうは申しましても、一応この記事を書くうえでJDream(文献検索)を用いて文献検索を行ったのち、J-Stage、ELSEVIERにて論文を拝読しております。
また、軽金属学会出版の書籍、金属便覧などを参考にしております(その割に大した記事はかけていませんが・・・)。
いちおう小職はこれ系の研究室の出身者です。
その上で考えた”個人の自由”としてお許しいただければ幸いでございます。
両者の意見が空中戦にもなりえますので、ブログを近日中に追記ないし修正をしたいと考えます。
いかがでしょうか。
アウトドア用品を構成する素材に興味を持ち、当ホームページにたどり着きました。軽さと強さの相反する要素を兼ね備えるウルトラライト系ギアなど、使用素材が異なると、道具の特性が異なるのかというところに個人的に興味を持っております。
そこで質問なのですが、
応力腐食割れは一定以上の応力と一定の条件下において発生する亀裂とのことですが、A7001、A7075応力腐食割れはどういった条件下で発生しやすいのか、教えていただけませんか?(塩水に対しては他サイトで見かけました)
また、メーカーによっては仕様表が間違っているとのご指摘。素人が家庭でアルミ合金、ジェラルミン、超ジェラルミン、超々ジェラルミンを見分けることは可能ですか?素材ごとに注意すべき腐食が起きやすい条件があれば教えていただけると幸いです。
当方のサイトです
https://yamanobori.site/
最近はトレッキングポール素材に興味津々です。
ご質問ありがとうございます。
トレッキングポール、おもしろい世界ですね。
>応力腐食割れは一定以上の応力と一定の条件下において発生する亀裂とのことですが、A7001、A7075応力腐食割れはどういった条件下で発生しやすいのか、教えていただけませんか?
一般的には「環境因子」、「材料因子」、「力学因子」の3つになりますが、小難しいことはおいときます。
・水分がある環境
・塑性変形がはいった場合(トレッキングポールでいうとポールが曲がってしまった場合)
・軽量化されたもの(使用応力が高い)
上記3点が現実的に起こりうるかと思います。
>また、メーカーによっては仕様表が間違っているとのご指摘。素人が家庭でアルミ合金、ジェラルミン、超ジェラルミン、超々ジェラルミンを見分けることは可能ですか?
残念ながら見た目での判断はできません。
これらの見分けは成分分析が最終的な決め手になります。
素材ごとの応力腐食割れが生じる条件ですが、残念ながらわかりかねます、すみません。
misohalさん返答ありがとうございます。
私、無名でも気になるギアを英語圏、中国大陸から取り寄せているので、こういった素材の説明がとてもありがたいのです。
アウトドア用品は軽いだけではキケンだし、必要以上に重たいものは持ちたくないが、安心できる強度は欲しい…。素材の特性を知って、少しでも安心して楽しみたいと思います。
ありがとうございました。
また違った素材のネタがありましたらお願いいたします。
小職程度の材料エンジニアですと幅がせまくて、おもしろい情報を提供するのは難しいかもしれません。
それにしても輸入されているのですね・・・すごいです。
中国の素材は侮れなくなっています。
その昔は驚きを通りこして笑えるものもありました。
最近では「あれ、すごい」と思うことが増えてきました。