人気の鍛造ペグの製造方法を超マニアックに比較

キャンプ道具の値付けは総じて高い印象をうける。大量生産品ではないのでわからなくもない。自動化が進めばコストは安くなるのだろうが、キャンプが流行しても値段は下がらないように思う。

さて、エンジニアをやっていると道具がどのように作られているのか気になる。今回の対象はソリッドステーク(スノーピーク)、エリッゼステーク(村の鍛冶屋)、スチールステーク(コールマン)の3つのペグだ。これらがどのように作られているか、ミクロ組織観察によって推定した。

本レビューは、巷に溢れるキャンプ道具の比較レビューではない。各社のペグがどのように製造されているか、日常生活ではまずお目にかからない手法を用いて極めてマニアックに比較した。正直、誰得なレビューとなることをお許し願いたい。

とはいいつつ読んでいただけるとうれしいのはたしか。そのため、どのような内容かを以下に記載する。もしご興味があれば読み進めていただきたい。

まとめ

  1. いずれのペグも鍛造(たんぞう)で作られている
  2. 熱処理及び研磨の有無がそれぞれ異なる
  3. 最も手をかけて作られているのはソリッドステーク(製造コストが高い)

 

アウトライン

1. 各社webサイトからわかるペグの比較

各社webサイトからペグの仕様をそのまま記載して比較した。仕様上はあまりかわらないように思う。価格はAmazonでの売価を記載している。

ブランド スノーピーク 村の鍛冶屋 コールマン
名称 ソリッドステーク エリッゼステーク スチールソリッド
工法 鍛造 鍛造 鍛造
長さ 30cm 28cm 30cm
重量 180g 192g 約190g
材質 S55C S55C スチール
塗装 黒電着塗装 カチオン電着塗装 記載なし
価格 462円/本 363円/本 429円/本

価格は2020年8月19日時点でのアマゾンでの掲載価格を表示している。

また、リンク先はアマゾンとなっている。

2. 調査方法

工法推定のため、ミクロ組織調査なるものを実施した。実はこのミクロ組織調査、破壊調査だったりする。ペグの先端を写真のように輪切りにして、金属の組織を観察する。

切断したペグ

輪切りにしたものを樹脂に埋めて研磨を行う。一般家庭には絶対に存在しない回転研磨装置で研磨する。これを鏡面になるまで磨く。

回転研磨によって鏡面に仕上げる

鏡面研磨が完了したら組織の現出のためにエッチングを行う(完全な鏡面だととミクロ組織が明確にみえない)。写真はナイタルでエッチングしたもので、アニメのストーンワールドにもでてきた硝酸とアルコールの混合液をエッチング液に用いた。これを金属用の光学顕微鏡で観察する。

鏡面研磨とエッチングが施されたサンプル

 

3. スノーピーク ソリッドステーク

まずはスノーピークのソリッドステークを。フック部の両面にロゴが入っているのはスノーピークだけだった。

ソリッドステークのロゴ1

ソリッドステークのロゴ2

MADE IN JAPANの凹文字がスノーピークたる所以を示しているように思う。

ソリッドステークの製造国の刻印

スノーピークのみレーザーマーキングでブランド名、商品名、バーコードが記載されている。無骨な工業品がなぜかおしゃれにみえてくる。

ソリッドステークに施されたレーザーマーキング

ソリッドステークは他のペグと比較して肌がきれい。滑らかだ。

肌のきれいなソリッドステーク

ペグのヘッド部に僅かな段差がみられる。鍛造してバリ抜き後に研磨をしているものと思われる。

ソリッドステークは研磨工程がある

パーティングラインが全周にみられる。ここからも鍛造が使われていることがわかる。

ソリッドステークのパーティングライン

ヘッドの孔には僅かに塗装がついてない部分がみられた。電着塗装する際、この部分を引っ掛けているものと考えられる。

ソリッドステークの孔

以下に示す写真は金属のミクロ組織と呼ばれるものになる。写真左側がパーティングラインであり、上下から押し潰され組織が流れている。肉眼によるマクロな観察では塑性流動層(フロー)はみられたが、ミクロ組織ではわかりやすいフローは見られなかった。組織が整っているため、調質がはいっているものと推定される。

ソリッドステークのマクロ的なミクロ組織

断面中心部のミクロ組織を以下に示す。30から100μm程度のそこそこ粗い結晶粒がみられた。全体的にパーライトが観察されている。驚くほど美しいミクロの世界。

ソリッドステークのミクロ組織

黒色の塗膜は20μm程度であり、密着も申し分ないように思う。調質している割に脱炭層が見られないことから、マクロでみたように調質後に研磨が入っているように思う。

ソリッドステークの塗装厚さ

鍛造、バリ抜き、熱処理、研掃(バレル研磨?)、研磨、塗装、レーザーマーキングと手がこんでいる。おそるべしスノーピーク。意匠面には並々ならぬ要求があるように思う。

4. 村の鍛冶屋 エリッゼステーク

エリッゼステークは片面のみロゴが入っていた。

エリッゼステークのロゴ1

エリッゼステークのロゴ2

ソリッドステーク同様にMADE IN JAPANの刻印があるが、エリッゼステークは凸文字になっている。

エリッゼステークの製造国刻印

周り止めとされている楕円形状。

エリッゼステークの肌

表面は割ときれい。スノーピークの方がわずかに表面が平滑だった。

エリッゼステークの肌はそこそこの面粗さ

エリッゼステークのパーティングラインが全周にみられる。鍛造で作られているものと思われる。

エリッゼステークのパーティングライン

こちらも電着塗装時に孔をつかっているため、ソリッドステーク同様に未塗装部がわずかにみられる。

エリッゼステークの孔

写真左がパーティングラインとなっており、ソリッドステーク同様に調質されており結晶粒が整っている。

エリッゼステークのマクロ的なミクロ組織

内部もソリッドステーク同様のパーライトがみられた。鍛造、熱処理はほとんど同一のように思う。

エリッゼステークのミクロ組織(パーライト)

ソリッドステークとは異なるのは、エリッゼステークには脱炭層(白い部分)がみられることだ。熱間鍛造ないし熱処理(大気)により脱炭が生じたものと推定される。

また、表面に凹凸がみられ、なおかつ塑性流動が残っていることから、研掃(バレル研磨ないしショットブラスト)後に塗装したと考えられる。塗膜は20μm程度あるが塗膜にばらつきがあるのはこのためだ。

エリッゼステークの塗膜厚さ(脱炭あり)

 

5. コールマン スチールソリッド

コールマンもエリステ同様に片面のみロゴがはいっていた。

スチールソリッドのロゴ1

スチールソリッドのロゴ2

MADE IN JAPANの文字はスチールソリッドにはみられなかった。

スチールソリッドには製造国刻印がない

スチールソリッドはペグ表面がデコボコしている。

スチールソリッドの肌はごつごつしている

他のペグ同様にパーティングラインがみられ、鍛造と推定される。

スチールソリッドのパーティングライン

孔は機械加工であけられており、ソリステ、エリステとは異なる。

こちらも塗装のためにこの孔を使っており、未塗装部がみられた。

スチールソリッドの孔

コールマンスチールソリッドのミクロ組織がこちら。明らかにソリステやエリステとは異なる。結晶粒が整っておらず、フローが明白なことから調質が入っていないことがわかる。

スチールソリッドのマクロ的なミクロ組織

ペグ中心部の結晶粒が細かい部分。フェライト(白い部分)がその他のペグと比較して多くなっている。

スチールソリッドのミクロ組織(フェライト/パーライト)

塑性流動があまり入っていない結晶粒が大きい部分。割とパーライトがリッチになっているがフェライトもところどころみられた。

スチールソリッドのミクロ組織(フェライト/パーライトリッチ)

ブラストないしバレル研磨のような研掃が入っていると思われる。ミクロ組織が押しつぶされており、強烈に研掃がはいっていると推定される。

塗膜も20μmをきるぐらいだった。

スチールソリッドのミクロ組織(塗膜厚さ)

6. 調べた結果からわかったペグの比較

まとめると、工法でもっとも手のかかっているのはスノーピークのソリッドステークだろう。ここまでやったらブランド代をいれても高くなるように思う。村の鍛冶屋のエリッゼステークはそういう意味ではリーズナブルだろう。コールマンのスチールソリッドは手がかかってない割に高いように感じる。

ソリッドステークは作りが丁寧でその工程の価値を認められるのであれば、買いだと思う。ただ、こればかりはみなさんのご判断に委ねたい。

ブランド スノーピーク 村の鍛冶屋 コールマン
名称 ソリッドステーク エリッゼステーク スチールソリッド
鍛造 ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎
バリ抜き ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎
熱処理 ⚪︎ ⚪︎
研掃 ⚪︎ ⚪︎ ?
研磨 ⚪︎
塗装 ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎
その他 レーザー刻印

 

“人気の鍛造ペグの製造方法を超マニアックに比較” への7件の返信

  1. めちゃめちゃ興味深く読ませていただきました。
    エリステとソリステの価格差には手間賃が入っている、と思えば納得です。
    なんだか揉めている両者ですが、仲良くして欲しいものです。
    ホールアースや増えてきた中華の鍛造ペグや、ロゴスやUJackの鋳造ペグはどうなのかも気になりますね。

    1. コメントいただき、ありがとうございます。
      ご指摘のロゴスの鋳造ペグが気になって仕方ありません。
      ということで、さきほどロゴスのペグのミクロ組織観察をしました。
      工法は想定していなかった鋳造でして、驚いています。
      折れないのかな・・・と心配になります。

      その昔、エリステのペグの強度比較のページでは、*(アスタリスク)マークで他社(明らかにスノーピーク)比較していました。
      村の鍛冶屋はちょっとやりすぎてしまった感じがします。

  2. 大変興味深く拝見しました。
    ペグなんざ針金の太いの、くらいに思っていたのですが(失礼)、なかなかどうしていろいろあるものですね。材料屋はおもしろいですね。
    私は山岳テントしか知らず、ペグは使ったことないのですが、皆さん30cmもあるペグを使ってらっしゃるのでしょうか。そして、塗装は使ってたらボロボロになってしまわないのでしょうか。

    1. うれしいコメントありがとうございます。
      本物志向の方に回答するのはお恥ずかしいのですが・・・
      ペグは30cmが一般的で最大で50cmのものもあります。
      そして塗装は使えば剥がれます。
      奇妙な世界に見えるかと存じますが、爆売れのようです。

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